よくある相続問題のケースとは?相続専門の司法書士が解説!
うちは相続トラブルなんて起こる訳がないと思っている方々が多くいるかと思いますが、
相続はお金が絡むこともあり、トラブルが発生することが非常によくあります。
相続で揉めて調停となったり、相続をきっかけに仲が悪くなってしまうといったケースです。
今回のコラムでは相続問題の良くあるケースとその対策方法をご紹介致します。
①相続人間の遺産分割に関する相続問題
被相続人の遺産を誰がどのくらいの割合で相続するのか、相続人の間で問題となるケースがよくあります。
- ・教育資金の格差
- ・住居購入費の援助の有無
- ・被相続人の介護
など、これまでの援助額の差や被相続人との生前の関係性によって、兄弟それぞれの主張があり、遺産分割の話し合いがまとまらなくなる可能性があります。
遺産分割協議の決着がなかなかつかない場合、遺産分割調停・審判(裁判)をすることとなりますが、法定相続分に則って相続されることが一般的です。
下記では、相続人間の遺産分割で揉めるケース、遺産分割協議中に発生することがある問題を3つ紹介します。
相続遺産の独占を主張する人がいるケース
「長男だから」「親と同居しているから」といった理由で遺産の全額相続を主張する相続人がいるケースがあります。
たしかに、戦前の法律では「家督相続」という、長男がすべての遺産を相続することが認められている法律がありました。しかし、現在は撤廃されています。
もしも相続人の1人が全財産を相続すると主張しても認められません。
法定相続人には遺留分といって、各相続人の権利を法的に認められているためです。
しかし、このような相続人がいらっしゃいますと、手間と時間のかかる調停まで発展してしまう可能性が高まります。
寄与分に関して揉めるケース
寄与分とは、被相続人の介護や身の回りの世話などを献身的に行っていた相続人には、生前の貢献度に応じて上乗せされる遺産のことです。
この寄与分は、他の相続人に寄与分を認めてもらわないといけません。
しかし、親の面倒を見ることは当然、自分も近く人住んでいたら介護していたと寄与分を認めてくれないケースがあります。
遺産分割協議に参加しない人がいるケース
遺産の分割について話し合う遺産分割協議は、相続人全員で行います。
話し合いがまとまったら作成する遺産分割協議書には、相続人全員の署名・捺印が必要だからです。
しかし、その遺産分割協議に相続人が参加しないケースがあります。
代襲相続など被相続人との関係性が薄く参加を遠慮してしまうことや、疎遠になっている、そもそも行方不明が原因となることが多いです。
遺産分割協議は対面で行う必要はありませんから、電話や手紙で話を進めることができます。
疎遠になっており所在がわからない場合は、戸籍の附票内には、住民票上の住所を確認しましょう。その住所に手紙などを送付するようにしましょう。
相続人が行方不明となっている場合は、「不在者財産管理人」の選任を申し立てて、行方不明者の代理で財産を管する人を選任しましょう。
②遺言書の内容が極端に偏っている
遺言書がある場合、基本的には遺言書通りに相続することとなります。
しかし、遺言書の内容が「長女にすべての財産を譲る」といったように、あまりにも偏ったものだと、他の相続人は納得がいかないでしょう。
遺言書の内容によっては相続問題に発展し、調停ということもあります。
③被相続人に子どもがいない
被相続人にお子さんがいらっしゃらない場合、相続が複雑化することがあります。
配偶者がいるなら配偶者がすべて相続できると思われがちですが、子どもがいない場合は親や兄弟姉妹(甥姪)にも相続する権利が発生するのです。
遺産のほとんどが不動産(暮らしている家)である場合、他の相続人に相続分を主張されてしまうと、売却して相続分を譲らなければいけません。
このようなことから相続問題に発展してしまうのです。
子どもがいないご夫婦、おひとり様は生前に対策をしましょう。
④相続財産にマイナスの財産(借金)が含まれる
相続財産の中にが、マイナスの財産、つまり借金があることもあります。
相続放棄をせずにそのままにしていると借金を相続することになり、相続人が借金を返済しなければなりません。
こんなケースがあります。
同居していた家を相続したいけれど、遺産に借金があるといったケースでは、「借金を背負うか、家を手放すか」という選択を迫られることになってしまいます。
⑤家族による財産の使い込みが疑われる
実際に使い込みの事実がある場合はもちろん、事実がない場合でも疑われてしまうことで問題となることがあります。
例えば、被相続人と同居していたり、介護をしていたりといった場合には、その相続人が被相続人の財産を管理していることはよくあるのです。
日々の生活費や介護にかかる費用を被相続人の財産から捻出していたというケースであっても、事情をよく知らなかった他の相続人に使い込みを疑われることがあります。
被相続人の承諾を得ずに財産を使い込んだのであれば、これを相続財産に返済する義務(返済債務)があります。使い込んだ分を遺産に持ち戻して、遺産分割協議の対象とします。
身の回りの世話や介護でかかったのであれば、証明できるようにレシートなどをとっておきましょう。
⑥認識していない相続人・受遺者が現れる
相続発生後に、認識をしていない相続人や受遺者が現れることがあります。
よくあるのが実は前妻がおり、その前妻との間にお子さんがいたケースです。
あるいは、愛人がおり、その愛人との間に隠し子がいたということもあります。
「被相続人の子」として、相続権を主張されたら拒否することは難しいでしょう。
お子さんは法定相続人であり、遺産相続を受ける正当な権利があるからです。
他にも、被相続人が遺言書で「介護施設でお世話になった職員さんに財産を譲りたい」などと残していた場合など、相続人以外への第三者に遺贈しているケースもあります。
⑦相続人の人数が多い
事情によっては相続人が多くなるケースがあります。
代襲相続が発生する、認識していなかった相続人が現れる、孫と養子縁組をしているケースなどです。
相続人が多くなれば、その分それぞれの主張が増えることになりますし、全員と遺産分割協議を行わなければいけません。
相続人が増えることで、相続問題に発展する可能性が高くなるのです。
特に、仲の悪いご家族や前妻(愛人)との子がいる場合は注意が必要です。
相続人が多くなることが予想される場合は、あらかじめ遺言書を作成しておくのがよいでしょう。
⑧不動産に関する相続問題
預貯金などとは異なり、不動産は簡単に分割ができないため、相続問題の火種となることがよくあります。
下記では、不動産の相続で揉めるケースを3つ紹介します。
不動産を相続する/しないで不平等になるケース
このケースは、預貯金が少ない時によく発生します。
例えば、預貯金300万円、不動産(土地と家屋)4,000万円だった場合、不動産を相続する相続人が相続額としては高くなります。
もし、他の相続人が不足分を請求した場合、不動産を相続した相続人は差額を補填しなければなりません。
これを代償金といいます。
不動産を相続するのかしないのか、その不足分を補填する代償金に関して問題が起きてしまうのです。
不動産の名義について揉めるケース
不動産の名義で相続人が揉めてしまうこともよくあります。
不動産は、共同名義にすると扱いが難しくなります。
名義人の誰か1人でも不動産を売却や処分しようとすると、名義人全員の許可が必要となるからです。
名義人の誰かが亡くなった際には、遠い親戚が相続して名義を共有しなければいけなくなり、ますます問題になりやすくなります。
しかし、単独名義は嫌、協力を得られない、といった場合に不動産に名義をめぐり相続問題となります。
不動産を売却するかしないかで揉めるケース
不動産を売却する場合は、名義人全員の許可が必要となるため、名義人同士の意見が異なると売却するのかしないのか問題が発生します。
不動産を相続したい相続人、なるべく現金で相続したい相続人など、相続人同士の主張が異なることで話し合いが進まず、仲が悪くなってしまう問題もあります。
相続問題が発生してしまう原因とは
では、相続で問題が発生してしまう原因は何なのでしょうか。
ご家族、ご親戚同士の関係が良好であっても、相続で揉めてしまうこともあります。
以下で相続問題が発生する主な要因を紹介致します。
①遺言書がない
被相続人が遺言書を作成していなかった場合、相続問題に発展する可能性が高まります。
法的に問題のない遺言書が作成されていたならば、基本的には遺言書通りに被相続人の財産を分配することになります。
しかし、遺言書がないとなると、各相続人が自分の都合で相続の内容を主張するため、意見が対立してしまうということになりかねません。
また、被相続人は遺言によってその想いも遺すことができます。
介護をしていてくれたから少し多めに相続してほしいなど、被相続人の気持ちが分かれば、遺言の内容に納得してもらいやすくなります。
②相続内容が不透明
相続財産の内容が不透明な場合、相続問題に発展する可能性が高まります。
相続人同士が「隠している財産があるのでは」などと互いに疑心暗鬼になり、トラブルに発展していくことがあります。
もちろん相続手続き前に財産の調査はしなければなりません。
しかし、実は生前に贈与を受けていた!という相続人がいることもありますし、被相続人が相続財産を明確にしておかなかったことで問題に発展することがあります。
また、相続財産が不動産ばかりなど分割するのが難しい財産だけの場合も、相続人の間で不公平が生じやすく、争いごとに発展することがあります。
③相続人同士の仲が良くない
そもそも相続人同士の仲が良くない場合、相続問題に発展する可能性が高まります。
コミュニケーション不足により相続人間に遺産分割に対する考え方に齟齬が生じてしまうことが、相続問題に繋がってしまうのです。
相続問題を回避するための対策とは
よくある相続問題や、そもそも何が原因で相続問題が発生するのか解説してきました。
ここからは相続によってトラブルに発展しないために事前にできることをお伝えします。
円満な相続のために被相続人ができること、相続人ができることがありますよ。
①遺言書を作成しておく
円満な相続のためには、被相続人が遺言書を作成することが有効です。
遺言書を作成することで、相続人と相続内容を指定することができるので、相続で問題に発展することを回避することができます。
相続人間の食い違う主張で揉めることが少なくなるからです。
また、遺言書は前妻やその子どもがいる場合の対策や、相続税負担を抑えるための生前対策にも有効です。
ただし、遺言書の内容が極端に偏っていると、遺留分を巡ってトラブルになる可能性があります。
遺言書作成時には、どのような内容にすればご本人様(被相続人)とその大切な方々(相続人)が幸せになれるかを専門家に相談するとよいでしょう。
②財産目録を作成しておく
財産目録とは、被相続人の財産を明記したものです。
相続発生時に「財産がどこにあるか分からない」「財産の全容が分からない」など、財産が不明瞭なために相続人が困ることがあります。
相続対象になる財産にはどんなものがあり、それぞれどれだけの価値を持っているのかという目録(一覧表)を作成しておくと、遺産分割の方向性を見出しやすくなります。
なお、借金がある場合にはその旨も記載しておきましょう。借金もトラブルに繋がる原因となるからです。
被相続人は、遺産の範囲を巡るトラブルを可能な限り防止するために、生前から財産目録を作成するのがおすすめです。
また、財産目録を作成時には、相続税の課税対象になるか、課税対象となる場合のだいたいの課税額もわかります。節税対策に有効です。
一般的な相続財産は下記のようなものです。
- ・土地
- ・預貯金
- ・有価証券
- ・自動車
- ・貴金属類
- ・住宅ローン
- ・生命保険
さらに、ゴルフ会員権など見落としがちな財産もありますから注意しましょう。
③家族で事前に話し合いをしておく
相続になった際に「誰が」「何を」「どれだけ」相続するのか家族(相続人)で話し合っておきましょう。
ポイントは、被相続人となりうる人(親)が元気なうちに、生前に話し合いの場を設けることです。
高齢になると認知症のリスクが高まるためからです。
認知症になってしまうと話し合いも難しいですし、そもそも遺言書の作成ができません。
また、兄弟や親族であっても連絡をしばらくとっていないケースはよくあります。
相続人同士でお互いの状況を知らない(例えば誰が介護をしているなど)こともあるので、状況の確認のためにもコミュニケーションをとることは大切です。
そして、家族で相続について話すことで合意形成しやすい、被相続人だけで遺言書を作成した時よりも相続発生後に問題が起こりにくくなります。
家族で話し合った内容をもとに遺言書を作成するのがベストですね。
④生前対策を行う
被相続人がご存命のうちに、生前対策を行っておくとよいです。
税金と財産の管理について対策をしましょう。
注意点としては、認知症等になっていない判断力のある元気なうちでないと、対策ができないということです。
また、生前贈与を受けた場合は、他の相続人に伝えたほうがトラブルになりにくいです。
⑤節税対策をしておく
相続税の負担や納税額の差によって、相続人間で問題となってしまうことがあります。
被相続人は、生前、課税の有無を確認し、必要に応じて生前贈与など節税対策を行うことがおすすめです。
ただし、相続財産の評価は難しいものです。
相続税がかかる・かかりそうであれば専門家に早めに相談するのがよいでしょう。
そして、相続する財産によって相続人間の増税額の差が生まれることがあります。
税を軽減する制度を利用することはもちろんですが、財産をなるべく現金化するなど分割しやすく不平等のないように対策しておくことも有効です。
⑥家族信託(民事信託)を活用する
家族信託とは、財産を信頼のできる家族に託し、自分や家族のために管理してもらうという財産の管理・処分の方法です。
判断力がなくなってからでは財産の管理・処分が難しいため、認知症対策として有効な手段です。
もしも、被相続人が認知症等で判断能力を失ったとしても、信頼できる家族に財産を管理してもらうことができます。
例えば、介護費用の不足が心配される場合、あらかじめ実家をお子様に託しておきます。
将来の施設入居時や資金不足になりそうなときに、託されたお子様が実家を売却して費用を工面することが可能です。
売却手続きも託されたお子様の判断で進めることができるようになります。
⑦生命保険を活用する
生命保険を活用することで、相続問題の回避や解決に役立ちます。
生命保険金は、みなし相続財産といって、相続財産として扱われないため遺留分を請求されません。遺産分割の必要がなく、受取人だけが相続できます。
遺留分を請求されることが予想される場合は、生命保険を活用するのも良いでしょう。
また、相続税が発生する場合の現金や、不動産の土地分割の際の代償分割に備えることができます。
⑧専門家に介入してもらう
相続について問題が発生しそう・したという時は専門家に依頼するのも手です。
特に、相続について揉めそうな場合に有効です。
各相続人の主張が異なっていては、いつまで経っても話し合いは平行線のままです。
相続手続きの中には期限のあるものもありますから、相続についての問題は早めに解決しなければなりません。
そこで、司法書士が仲立ちすることで、法的にできることできないことの整理や平等な財産の分割方法についてアドバイスしてもらえます。
また、疎遠になっている相続人や、遠方にお住まいの相続人の対応も依頼することができるので負担なく相続の手続きを終えることができます。
ご自身で相続問題の対処・対策はできますか?
人生において、相続は、そう何回も経験する出来事ではありませんよね。
本やネットで調べて知識があったとしても、実際に相続で問題が発生した時の対処や対策は時間も手間もかかり大変です。心理的なストレスが発生することもあります。
相続した財産について分割で揉めそう、連絡が取れないという場合には相続の専門家である司法書士に取り持ってもらうことが有効です。
司法書士に相続について依頼すれば、書類作成だけでなく、実は「双方の代理人」となることができるので、早めのご相談がおすすめです。
相続問題の発生を防ぐためにも、相続の専門家である司法書士に相談することをおすすめします。
この記事を担当した専門家
司法書士法人C-first
代表社員
山内 浩
- 保有資格
代表社員司法書士 家族信託専門士
- 専門分野
家族信託 相続 遺言 生前対策
- 経歴
司法書士法人C-firstの代表を務める。平成6年4月に貝塚市にて開業、平成25年4月には合併を経て事務所名をC-firstに改名。高齢者の生前対策について新しい財産管理承継ツールである家族信託などを活用して、高齢者の生前対策に最適なプランを提供する。