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遺言の基礎知識と相続法改正後の遺言

①遺言があれば相続手続きが簡単

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1-1遺言とは?

遺言は、自分の亡くなった後に自分の財産の処分方法などを言い残す手段です。遺言者としては、自分が亡くなった後、生前に自分が築いてきた財産を「誰に」「どのように受け継いで欲しい」等、希望があると思います。遺言は、それを相続人や受遺者に伝えるためにする最終の意思表示です。

亡くなってしまえば、故人の想いを伝える手段というのはありません。

故人が築き上げた財産であっても、どう分けるかは相続人に委ねることになります。

相続人によって環境や故人に対する思い、受け止め方は違うので、なかなか話がまとまらないこともあります。「お父さんは生きているときこう言っていた。」「私にはこう言った。」「でもその後〇〇してもらっているでしょ。」等・・・よく聞く話です。

 

遺言は、故人の想いをきちんと伝えることで、そんな無用な争いを防ぐことが出来ます。

1-2遺言は15歳になれば誰でも書ける

遺言は、満15歳になれば誰でも書くことができます。通常、未成年者が契約等をするときは法定代理人(親権者など)の同意は必要ですが、遺言は法定代理人(親権者など)の同意が不要です。

ただし、遺言時には遺言をする能力は必要です。(意思表示)

第961条 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

1-3法定相続分・遺産分割協議より遺言が優先!

相続が発生すると、亡くなった人の財産を相続人でどう分けるかということを決める必要があります。民法では、「法定相続分」が定められていて、それに従って、財産を分けることも可能です。

ただ、「財産に占める割合で不動産が多い。」「一部の相続人が生前に結婚資金等でお金をもらっていた。」等があると、単純に「法定相続分」で分けることが難しい場合がよくあります。

その場合は、相続人全員で財産をどう分けるかを決めるのですが、それを遺産分割協議と言います。

遺産分割協議をすると、その内容を書類(遺産分割協議書)に残します。そして、その内容に沿って、不動産の名義変更や預貯金の解約等をします。この場合、相続人のうち1人でも納得しなければ、手続きは滞り、家庭裁判所で話し合わなければならないような事態になります・・。

しかし!遺言書があると、この法定相続分や遺産分割協議より遺言書の内容が優先されます。

1-4遺言書がある場合の手続き

遺言書がある場合、受遺者(財産をもらう人)と遺言執行者(遺言内容を実現する人)が他の相続人に同意を得ることなく、相続手続きをすることが可能です。

例えば、不動産の名義変更(受遺者が相続人の場合)をする場合は以下の書類があれば、手続きが可能です。

①遺言書(自筆証書遺言の場合は検認済みのもの)

②亡くなった人の戸籍謄本

③亡くなった人の戸籍の附票又は住民票除票

④受遺者(不動産をもらう人)の戸籍謄本

⑤受遺者(不動産をもらう人)の住民票

⑥不動産の固定資産評価証明書

他の相続人に戸籍謄本や印鑑証明書を取ってもらったり、書類に署名捺印等してもらう必要がありません。

銀行の相続手続きは各金融機関に確認する必要はありますが、基本的には①②④で手続きが可能です。

②遺言は大きく分けて4種類!

2-1【1】自筆証書遺言(★平成31年1月13日改正)

民法の規定する遺言の方式には、3つの普通方式(自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言)と4つの特別方式があります。

まずは自筆証書遺言です。平成31年1月13日に2項と3項が改正されました。

第968条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

改正点としては、自筆証書遺言は、もともと全文・日付・氏名を自書し、印鑑(実印で無くても問題ありませんが、実印をオススメしております。)を押す必要がありましたが、財産目録を添付する場合は、その財産目録については、自書を不要としました。

例えば、不動産がたくさんある場合など、登記事項証明書通りに記載するのは大変です。その場合、パソコンでの入力や登記事項証明書の添付等が可能になりました。(ただし、そのページには署名押印が必要)

書く量が減ることで、遺言書へのハードルの低下、書き間違いの減少になるのではないでしょうか。

ただ、気軽に書ける分、きちんと要件通り書けておらず、無効になるケースや、思いがきちんと伝わらず、余計に揉めてしまうケース等が後を絶ちません。

2-2【2】公正証書遺言

公証役場で、証人2人以上の立ち会いのもと、公証人に作成してもらう遺言です。

証人は、未成年者、遺言で財産を譲りうける人、その配偶者、その直系血族、公証人の配偶者、4親等内の親族、公証役場の職員などはなれませんが、利害関係のない親戚や友人でも可能です。

いらっしゃらない場合は、当事務所の職員がなることも多いです。(証人1人あたり10,000円)

公証人に作成してもらうので、間違いが無く、確実に遺言を遺すことが可能です。

第969条 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

 証人二人以上の立会いがあること。

 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。

 公証人が、遺言者の口述を筆記し、これを遺言者及び証人に読み聞かせ、又は閲覧させること。

 遺言者及び証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自これに署名し、印を押すこと。ただし、遺言者が署名することができない場合は、公証人がその事由を付記して、署名に代えることができる。

 公証人が、その証書は前各号に掲げる方式に従って作ったものである旨を付記して、これに署名し、印を押すこと。

2-3【3】秘密証書遺言

遺言者が、①遺言内容(全文が自署である必要はない)に署名、押印し(実印で無くても問題ありませんが、実印をオススメしております。)、②当該遺言書を封筒に入れて封じ、封印に押印したものと同じ印章をしたうえ、③公証人にこれを提示して所定の処理をしてもらう、という方式です。これも証人2人以上の立ち会いが必要です。

遺言内容を死ぬまで秘密にしたいときに使いやすいですが、公証人は中身を確認しないので、内容が要件を満たしていなければ、無効になる恐れもあります。

第970条 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。

 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。

 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。

 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。

 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。

 第968条第三項の規定は、秘密証書による遺言について準用する。

2-4【4】特別方式とは?

特別方式の遺言とは、①~③の普通方式と違い、死亡が目前に迫っていたり、 船舶や飛行機が遭難した場合などに、緊急に特別で作る遺言のことをいいます。

もし普通方式遺言が可能になって6か月間生存した場合は、 その遺言は無効となります。

特別方式遺言には、次の4つがあります。

【一般危急時遺言】

・病気やケガで臨終の時が迫った時にする遺言

・証人3人以上が立ち会い、1人が口述し全員に読み聞かせる

・20日以内に証人か利害関係人が家裁に請求し確認を取る

【難船危急時遺言】

・船の遭難で船中にある時に臨終が迫った場合の遺言

・証人2人以上が立ち会えば口頭でよい

・証人が趣旨を筆記し、署名捺印し、証人の1人または利害関係人から家裁に遅滞なく請求し確認を取る

【一般隔絶地遺言】

・伝染病で病院に隔離された人が遺言を作る場合

・警察官1名と証人1人以上の立ち会いが必要

【船舶隔絶地遺言】

・船舶内にいる人が遺言を作る場合

・船長または事務員1名と証人2人以上の立ち会いが必要

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③自筆証書遺言~メリットと注意点~

3-1遺言の中で1番お手軽&簡単

自筆証書遺言は、文字通り、遺言者が自書する遺言です。全文(改正により財産目録は自書不要)・日付・氏名を書き、はんこ(実印で無くても問題ありませんが、実印をオススメしております。)を押せば良く、民法が定める遺言の中で、1番お手軽で簡単に作成できます。

紙とペンとはんこがあれば作成でき、証人も立会人も不要です。また、自分が亡くなるまで遺言内容を秘密にできるというメリットもあります。

3-2無効になる遺言も多い!?

自筆証書遺言は、③1-1で説明したようにお手軽で簡単に作成できる分、遺言の要件に合わず、無効になるケースも多いです。ご相談者様の中にも相続が発生し、自筆証書遺言をお持ちになる相続人様が多いですが、中身を見てみると、残念ながら有効となる遺言は少ないです・・・。

無効となるケースでは、本当にメモのような記載で、日付、氏名、はんこが無いもの、あげたい財産がきちんと書かれていない、訂正箇所がきちんと訂正できていない等があげられます。

また、自分で保管する必要があるので、変造や偽造の心配もあり、せっかく書いた遺言で相続人が揉めてしまうこともあります。簡単に作れる分、デメリットも多くあるので注意が必要です。

3-3家庭裁判所での検認手続きが必要

自筆証書遺言は、家庭裁判所で検認手続きをしないと、遺言の内容に沿って、執行(相続手続き)が出来ません。

検認手続きとは、相続人に対して遺言書の存在と内容を知らせ、遺言書の偽造・変造を防止する手続きです。検認手続きをするためには、まず以下の書類を家庭裁判所に提出します。

【相続人が配偶者と子供の場合】※相続人によって必要書類は変わります。

①申立書

② 遺言者の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

③相続人全員の戸籍謄本

④遺言者の子(及びその代襲者)で死亡している方がいらっしゃる場合,その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍,改製原戸籍)謄本

その後、家庭裁判所から相続人全員に検認日の連絡が入ります。検認日には家庭裁判所で相続人立ち会いのもと、遺言書の確認がされます。(封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人立ち会いの上、開封するので、開けないまま家庭裁判所に提出してください。)

検認手続きを経た自筆証書遺言も、あくまで相続人全員に周知させ、偽造・変造防止のために行われた手続きに過ぎず、有効性を認められたわけでは無く、登記手続きや預金解約等の相続手続きに必ず使用出来るとは限りません。

よって自筆証書遺言を発見された場合はご注意頂き、まずは専門家に相談することをオススメ致します。

3-4遺言執行者を定めるべき

自筆証書遺言で一番多くて困るのが、遺言執行者を定めていない場合です。

遺言執行者とは、簡単に言えば、遺言書に書かれている内容を実現するために、各種相続手続きを進めていく人のことをいいます。

各種相続手続きとしては、例えば、相続財産目録の作成や、銀行等での預貯金の解約、法務局での不動産の名義変更などがあります。

遺言執行者を定めていない場合、相続手続きをするにあたって、遺言執行者選任を家庭裁判所に申し立てるか、他の相続人に協力してもらう必要が出てくる可能性があります。そうならないために遺言の中に遺言執行者を定めておく方が良いです。遺言執行者は円満に相続できるように専門家に依頼する方も増えています。

④公正証書遺言~メリットと注意点~

4-1公正証書遺言は安心・安全

公正証書遺言は、公証人に遺言内容を口頭で伝えて、公証人が作成する遺言です。事前にどんな遺言にしたいのかを伝えると、公証人が遺言書を作成してくれます。遺言者は作成した遺言を確認して最後に氏名を書き(書くことが困難な場合は公証人による代筆可)、実印を押します。(印鑑証明書必要)

出来上がった遺言書は、原本はそのまま公証役場に保管されるので偽造変造の心配も無く、安心です。また、データでも保管されるので、火事や地震が起こっても無くなることも無いため安全です。

内容についても公証人が作成するため、無効になることはほとんど無く、相続後、確実に遺言内容が実現されます。

4-2費用はどれくらい?

④1-1のように「安心・安全」な公正証書遺言ですが、その分、費用が掛かります。

相続財産によって変わってきますが、例えば、1000万円の財産を長男に相続させる場合、17,000円+11,000円(1億円未満のため)=28,000円で、約30,000円です。(下記参照)

公証人手数料

※出張で遺言書作成してもらうことも可能です。その場合、費用は変わってきます。

他、司法書士等の専門家に依頼する場合は、6万円~(証人2名含む)が掛かってきます。

安く感じるか高く感じるかは人それぞれかと思いますが、「安心・安全」そして「確実」な遺言書を作成できると思うと、決して高くない金額だと考えられ、実際、公正証書遺言を遺す人は年々増えています。

4-3証人2人が必要

公正証書遺言は、遺言作成時、証人2人に立ち会ってもらう必要があります。

証人については、「②遺言は大きく分けて4種類!1-2 ②公正証書遺言」をご覧ください。証人は遺言書作成当日、遺言内容を聞き、最後に署名捺印(認印)します。証人が立ち会うことで、「この遺言は遺言者の意思である。」ということを示すことができます。

4-4家庭裁判所の検認が不要

公正証書遺言は、自筆証書遺言のときに必要だった家庭裁判所の検認が不要です。(「③自筆証書遺言~メリットと注意点~1-3 家庭裁判所での検認手続きが必要」をご参照ください。)

よって、相続後、財産をもらう人がすぐに相続手続き(不動産の名義変更・預貯金の解約など)をすることが可能です。

公正証書遺言は、書く人は費用が掛かりますが、遺された人は相続手続きが楽になります。

この記事を担当した専門家

司法書士法人C-first

司法書士

江邉 慶子

保有資格

司法書士 相続アドバイザー 2級FP技能士 行政書士 宅建士

専門分野

相続 遺言 生前対策 家族信託

経歴

大学卒業後、不動産会社に勤務。自身の祖父の相続経験から「相続争いになる人を減らしたい」という想いがあり司法書士試験にチャレンジし、合格。平成27年7月から「司法書士法人C-first」に入所。入所時から相続を担当し、相談件数400件以上。セミナー講師も務め、生前対策の大切さを伝える。


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