総合支援型後見監督人制度中に相続が発生したケース
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相続丸ごとサポート
登場人物
父
母
Aさん
妹
相談内容
「父が亡くなった」とAさんから連絡がありました。
Aさんとは別件でご縁があり、数か月前からAさんと弊法人は総合支援型後見監督人制度を利用して、Aさんの母を被成年後見人、Aさんを成年後見人として、弊法人がその監督人となっていました。
総合支援型後見監督人制度とは、親族間の後見人の後見業務を専門家が監督人となり後見人の業務を指導・助言・相談などの支援をし、9ヶ月間のうちに業務に慣れて頂いた後で先は後見人だけで業務を行います。
専門家が後見人に就任した場合は一般的には被成年後見人が亡くなるまで解任することはなく、報酬を支払い続ける事になりますが、この制度を利用すると専門家には監督人としての9ヶ月分の報酬を払うだけで済みます。
そのため専門家を後見人に就任させるよりも費用の負担を減らし、成年後見制度を利用しやすくなっています。
父は亡くなるまで入院しており、その医療費を工面する必要があったのですが父の財産は母が住むマンションの1室と預金が数万円程度でした。
そのため父の面倒も見ていたAさんは父の医療費を同工面するか悩んでいました。
一方で被成年後見人である母は多額の株式を保有していました。
父と母の財産額に差がある理由
Aさんの父は生前サラリーマンとして定年まで働き通しましたが、給料は全て家に入れていました。
いわゆるお小遣い制でお金の管理は全て専業主婦である母がしていたのです。
母は父から預かったお金のうち、使い切らない分はコツコツと株式投資に回していました。
その結果、二人が高齢になった今、財産額に大きな差が出来てしまっていたのでした。
そして父の医療費が工面できない今、母の財産から支払う事が出来れば良いのですが、そうできない事情がありました。
被成年後見人の財産が動かせない理由
母は被成年後見人ですのでその財産は後見人に守られています。
母の財産を誰かにあげるには合理的な理由が必要です。
それは後見人であるAさんが必要があると思っていても裁判所が認めてくれません。
しかし、今回、父の財産が少ない理由を考えると、「父の稼いだお金=夫婦共有財産」を母が管理していたので母の財産の半分は父の物だという事になります。
であれば母の財産を父に戻すことは合理的な理由であると言えます。
そこで弊法人からAさんには裁判所に事情を伝えて母の財産を年110万円ずつ父に移動する方法を提案しました。
そしてそれを実行しようと思っていた矢先に父が亡くなってしまって弊法人に連絡をくださったのでした。
解決までの流れ
父の相続の問題と同時に、父が受けた医療費を支払う方法を再度考えなくてはなりません。
父の数万円の預金を相続してもその費用を支払う事ができませんしマンションは母が住むため売却できません。
そこで弊法人はさらに裁判所に事情を説明して母の財産の半分は父の物出るから相続財産として相続人が遺産分割する事ができるかを相談しました。
話合いの結果、それが可能である事がわかったため、父の相続財産を母が保有する株式の半分の金額を遺産分割する事になりました。
しかしここでさらに問題があります。
相続人母、Aさん、妹の3人がいます。
母は被成年後見人であるため代理人が必要でその代理行為をするのは普通であれば後見人であるAさんなのですが、Aさんも相続人であるため「利益相反」になってしまいこの状態ではAさんが代理人になる事は禁止されています。
利益相反とは
例えば母の相続分を増やすとAさんの相続分が減ります。
あっちをたてればこっちが立たないという状態で、Aさんが母の代理人になってしまうとAさん1人で相続財産を好きにできてしまいます。
こういった状態を「利益相反」といい法律で禁止されているため今回、Aさんは代理人になる事はできません。
そこで私たちは妹に母の代理人になってもらう方法を考えました。
妹もAさんと同じく相続人なので「利益相反」しているのですが、相続放棄をしてもらえれば話は違います。
妹が相続放棄をする事で相続人ではなくなるため母の代理人として遺産分割協議に参加してもらう事ができます。
その提案を妹にして頂くと、快諾してくれたとの事で早速私どもで相続放棄の手続きを行いました。
無事に相続放棄が受理されましたので、妹を母の代理人として遺産分割協議を進める事ができました。
母とAさんの遺産分割協議
母の株式の金額は2000万で、その半分1000万が父の物であるとすれば、父の財産はマンション(1000万)と株式(1000万)を合わせて2000万です。
被成年後見人である母は法定相続分以上の財産を受け取る内容でなければ裁判所が認めてくれませんので2分の1の1000万は母が受け取る必要があります。
Aさんが父の医療費を払うためにはお金が必要だったのでマンションは母が相続し、その代償金として1000万をAさんが受け取る事としました。
この遺産分割協議の内容で裁判所が認めてくれたため、私どもがマンションを母の名義にし、株式の一部をAさんの名義にする事で今回の業務を完了したのでした。
Aさんはその後、医療費を含む雑費なども諸々を支払うことができ、私どもも引き続き総合支援型後見監督人制度の監督人としてAさんを支援し続けています。
まとめ
今回は偶然にも私どもが総合支援監督人制度の監督人と就任していたため迅速かつ適切に対応してAさんに介護資金が渡るように出来ました。
総合支援監督人制度の利用には以下の条件があります。
・本人の資産が金融資産として1200万円以上あること
・なおかつ後見人の候補者が身内であること
今回は母の資産が1200万円以上あったため利用する事ができました。
そして今回は相続の知識だけでなく成年後見制度の知識や2年前に新しく始まった総合支援監督人制度、さらには財産が誰の物であるのかを考える必要もあるため極めて難しい判断の強いられる手続きではありました。
後見制度は被成年後見人の利益を第一に考えるという性質上、介護の利便性を損なう可能性もあります。
そういった問題を解決するためにも事前に専門家への相談をおすすめします。
この記事を担当した専門家
司法書士法人C-first
司法書士
山﨑 聡
- 保有資格
司法書士 行政書士 土地家屋調査士 宅建
- 専門分野
相続 遺言 生前対策 成年後見
- 経歴
若くして、すでに業界歴11年を超える大ベテラン。相続をはじめ成年後見、遺言などあらゆる手続きに精通する生前対策のスペシャリスト。