高齢の遺言執行者に変わり相続手続きをしたケース
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登場人物
被相続人
Aさんの母
相続人
Aさん:相談者
Bさん:Aさんの兄。10年ほど連絡を取っていない。遠方にお住まい。
遺言執行者
Cさん:Aさんの親戚。
相談内容
「母が亡くなった。相続人は自分と疎遠の兄の2人。遺言書があるので手続きをして欲しい。」とAさんが相談に来られました。
相続人はAさんと兄であるBさんの2人で、Aさんの父はすでにお亡くなりになっておられました。
Bさんは遠方にお住まいで10年以上連絡を取っていない疎遠状態でした。
Aさんの母は公正証書遺言を遺していて、そこには全財産をAさんに相続させる内容が書かれていたのです。
Aさんの希望としては遺言書の通りに手続きを進めたいということだったのですが、不安なことが2点ありました。
二つの注意点
1、遺言執行者が定められていた。
公正証書遺言では遺言執行者が定められていました。
遺言執行者とは遺言書の通りに財産を分ける責任を負う人です。多くは遺言者が遺言書で指定します。
遺言者が亡くなった後、遺言執行者は亡くなった人の遺志を大切にして遺産を円滑に分ける役割をします。
遺言執行者がいることはとても望ましいことで、私たちも遺言内容を相談されると遺言執行者を定めることをおすすめしています。
しかし、Aさんにお話を伺うと、遺言執行者の方はAさんの親戚(Cさん)で協力的な人ではあるのですが、ご高齢で、自分で手続きをするのは難しいとのことでした。
実は遺言執行者に関する法律は2019年に改正され、負わなければならない義務が増え、またその内容も厳しく改正されました。
遺言執行者の義務には例えば以下のようなものがあります。
①相続人等への通知
民法1007条2項により、遺言執行者は、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知する必要があります。
遺言書の写しを送ることがほとんどですが、遺言執行者から相続人等への初めての通知となるため、遺言の存在や死亡の事実を知らない方もいらっしゃいます。
遺言執行者の権限とその職務の概要をきちんと説明し、今後、相続人等の理解と協力を求める等、文章に関しては、注意を払って考える必要があります。
②相続人を漏らさず調べるために、戸籍等の収集(相続人の確定)
遺言執行者は、遺言者が亡くなった後、正確な相続人を特定しなければなりません。
これには、戸籍や住民票、家族関係の確認など、多くの情報を収集し、関係者と連絡を取り合う手間が必要です。
また、遠方に住んでいる相続人や疎遠になっている相続人がいる場合、情報収集がさらに難しくなります。
③相続財産目録の「作成」及び相続人全員へ「交付」
遺言執行者は、遺言者が遺した財産の詳細なリストを作成し、それを相続人全員に配布しなければなりません。
これには、財産の調査、評価、整理が必要ですし、相続人が多数いる場合や遠方に住んでいる場合、財産目録の配布にも手間がかかります。
思い当たる銀行に通知を出して残高証明書を取るなど、ちゃんと財産を調査したと言えるだけのことをする義務があります。
これらを考慮すると、高齢のCさんに実行をお願いするのは難しいと感じるのは私たちも同じでした。ただ、将来、お兄様と揉めるようなことはしたくないとAさんはおっしゃっていました。
遺言執行者がいる方が将来お兄様と揉めるようなリスクは軽減されますが、遺言執行者によって手続きをするのが困難である今回のようなケースでは専門家に履行補助者として手続きを手伝ってもらうのがスムーズです。
Cさんから私たちに手続きを依頼していただくことで、私たちが「履行補助者」として遺言執行者とほぼ同等の権限を持って代わりに手続きを行うことができます。
遺言執行者を第三者に任せてしまう「復委任」は民法が改正される前は遺言書の復委任を認める文言があるか「やむを得ない事由がなければ行えない」とされていましたが、現在は改正され、特に制限なく復委任することができるようになりました。
今回は、旧民法で作成された遺言であり、遺言書に復委任を認める文言が無かったため、履行補助者として手続きをさせていただきました。
解決までの流れ
まずは遺言執行者であるCさんと連絡を取りました。
Cさんは高齢でしたが、Aさんの母の遺志を尊重したいという意志は強くお持ちでしたが、自分では手続きをすることが難しいとのことで、弊所に依頼をしていただきました。
これでシーファースト相続相談窓口は履行補助者になりましたので、相続手続きに取り掛かることができます。
次に戸籍の収集です。
幸い相続関係は複雑ではなかったため、遠方ではありますがスムーズに進みました。
次に相続人が確定したので、相続人に遺言書の写し等を送付しました。
送付後、Bさんから相続はすべて放棄するとの連絡がありました。
AさんとCさんは安心したご様子でした。
次に調査をして目録を作成します。
財産の内容は概ね遺言書に書かれていたので、調査もスムーズに行うことができました。
銀行に連絡をして、遺言書等を提出し、残高証明書などの書類を集め、不動産に関しては、名寄帳や登記簿等を取得しました。
一通り財産関係の書類が揃ったので、Bさんに財産目録を送付させていただきました。
引き続き預貯金の手続きと不動産の登記手続きを行いました。
再度銀行に連絡し、口座の解約手続きを行い、不動産に関しては法務局に提出するための登記申請書を作成し、集めた書類を綴って申請を出しました。
どちらの手続きもスムーズに進み、今回の案件を無事完了しました。
まとめ
遺言執行は民法改正により、一般の方が行う手続きとしてハードルが上がってしまいました。
遺言者がよかれと思って執行者を定めても、その人が義務を怠ると解任されるかもしれないですし、争いを避けるために書いた遺言書が争いの火種になってしまう可能性もあります。
それを防ぐためには、事前に遺言執行者にどのような義務を負うのかしっかりと伝えることが重要です。
また、せっかくの遺言書ですので、争いが起こらない遺言書にするために専門家に相談していただくことがより確実だと思います。
そして、改正により遺言執行者が復委任できるようになったことを知っている人はあまり多くありません。
もし自分が遺言執行者に任命されていたら、専門家に相談することをお勧めします。
この記事を担当した専門家
司法書士法人C-first
司法書士
江邉 慶子
- 保有資格
司法書士 相続アドバイザー 2級FP技能士 行政書士 宅建士
- 専門分野
相続 遺言 生前対策 家族信託
- 経歴
大学卒業後、不動産会社に勤務。自身の祖父の相続経験から「相続争いになる人を減らしたい」という想いがあり司法書士試験にチャレンジし、合格。平成27年7月から「司法書士法人C-first」に入所。入所時から相続を担当し、相談件数400件以上。セミナー講師も務め、生前対策の大切さを伝える。