相続時の預貯金仮払い制度を使い生活費を確保できたケース
ご利用サポート
相続手続きサポート
登場人物
被相続人
Aさんの夫
相続人
Aさん(相談者)
Aさんの夫の兄弟二人
相談内容
「相続手続きが進まなくて生活費が払えない」とAさんが相談に来られました。
Aさんは夫を亡くし、生活費を夫の口座で管理していたため、相続手続きを終えないと生活費を引き出せないといった状況になってしまいました。
そのため親戚からお金を借りて生活費を工面しなければならないほど困窮していました。
Aさんには子供がおらず、相続人はAさんと夫の兄弟二人となりましたが、その兄弟うちの一人と連絡が取れない状態でした。
相続手続きが進まない原因は、夫の兄弟の一人と連絡が取れないことにありました。
相続人全員で分け方(分割内容)に同意したことを証明する遺産分割協議書という書類又は銀行所定の用紙に署名、実印の押印及び印鑑証明書がなければ銀行は預貯金口座の解約に応じてくれません。
連絡が取れない相続人がいるとその書類を作る事ができないため別の方法を検討しなければならず、手続きが複雑化してしまい、膨大な時間がかかる可能性があります。
連絡の取れない相続人がいる場合の手続きとしては、以下のようなものがあります。
・不在者財産管理人の選任
・相続財産管理人の選任
・失踪宣告の申し立て
・相続分の供託
どの手続きを取るかは状況によって異なり、専門的な判断が必要です。
また、仮に連絡が取れたとしても、相続人が協力的でない場合や、認知症などで意思能力が喪失している場合は、さらに調停の申し立てや成年後見人制度の利用が求められます。
いずれの場合も、Aさんが相続財産を受け取るまでの期間は不透明です。
解決までの流れ
相続時の預貯金仮払い制度
そこで、私たちはAさんに「相続金仮払い制度」を紹介しました。
この制度は2019年7月1日の民法改正により導入されたもので、相続人全員の同意を得ずとも、預貯金から一定の金額を単独で引き出すことが可能となる仕組みです。
手続きの詳細と流れ
Aさんの夫の口座は二つの銀行にあり、それぞれの銀行と打ち合わせを行い、必要な書類を揃えて申請を進めました。
必要書類は銀行によって異なりますが、多くの場合、次のようなものが求められます。
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本(または法定相続情報一覧図)
・仮払いを受ける相続人の身分証明書と印鑑証明書
・銀行ごとの申請書
Aさんの場合、各銀行の仮払いの上限額である150万円まで引き出すことができ、合計300万円の預貯金を確保することができました。
これにより、Aさんは一時的な生活費の問題を解消し、相続手続きを進めるための時間を確保することができました。
その後の対応
仮払いの手続きを終えたことで、Aさんは時間的な余裕が生まれ、残りの預貯金を解約するための相続手続きを進めることができました。
その後、連絡が取れなかった相続人には内容証明を送付するなどした結果、連絡を取り合うことができ、円満に相続手続きを完了すことができました。
まとめ
今回の事例では、2019年に導入された「相続金仮払い制度」が非常に有効に機能しました。
この制度は、他の相続人の権利を侵害しない範囲で預貯金を引き出すことを認めるものであり、遺産分割協議が難航する場合の救済策として活用できます。
ただし、銀行に死亡を通知するタイミングについては慎重に考慮する必要があります。
本来は遺産分割協議をして相続手続きを進めるに越したことはありませんが、それが出来ない場合は今回のような方法もありますので困ったときは専門家に相談する事をお勧めします。
この記事を担当した専門家
司法書士法人C-first
代表社員
山内 浩
- 保有資格
代表社員司法書士 家族信託専門士
- 専門分野
家族信託 相続 遺言 生前対策
- 経歴
司法書士法人C-firstの代表を務める。平成6年4月に貝塚市にて開業、平成25年4月には合併を経て事務所名をC-firstに改名。高齢者の生前対策について新しい財産管理承継ツールである家族信託などを活用して、高齢者の生前対策に最適なプランを提供する。