突然届いた故人の借金の督促。消滅時効の援用と相続放棄で適切な方法を選んだケース
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相続放棄サポート
登場人物
被相続人
Aさんの妻
相続人
Aさん
Aさんの子二人
Bさん(妻の前夫との子)
相談内容
「他界した妻の借金の督促状が届いた。相続放棄を考えているが時効でもありそうなのでどうすべきか相談したい」とAさんが相談に来られました。
Aさんには二人のお子さんがおり、最近になって妻が他界しました。
程なくして妻の借金の督促状が届いてしまいます。
その額は100万円以上。
相続人はAさんと子供二人、そして前夫との間の子(Bさん)が一人です。
最初は借金に驚いたAさんですが色々と調べるうちに借金を支払わない方法が二つある事を知りました。
借金を回避する二つの方法
①消滅時効の援用
1つは時効の援用です。
いくつかの督促状を確認すると
支払期から5年経っているものもあり、一部については、時効が完成しているようでした。
時効が完成している債務については、債権者に「この借金はもう時効ですから返済しません」という意思を伝える事で時効を確定させる事が出来ます。
これを時効の援用と言い、これにより債権者は返済を請求する権利を失います。
②相続放棄
もう一つは相続放棄で、ご存知の通り財産を相続しない事です。
これは裁判所で手続きをする必要があります。
借金を相続しないのですから当然返済の義務はありません。
この二つの方法のどちらを使っても借金の返済を免れる事はできますがどちらにもメリットデメリットがあります。
消滅時効援用のデメリット
相対効しかない。
時効を援用の効果は、援用した人と債権者の間でのみ生じます。そのため、他の相続人全員に効果を及ぼすならば、各々が、債権者に時効援用をしなければなりません。
後から別の債務が発覚した場合には放棄できない。
時効の援用を用いた後で別の知らない借金が後から発覚した場合でも、相続放棄はできません。
その借金についても時効の要件を満たしていれば時効を援用する事もできますが、そうでない場合は返済する事になります。
相続放棄のデメリット
プラスの財産も相続できない
相続放棄は特定の財産を放棄する事ではなく相続人としての権利を放棄する事ですので、借金以外に財産があれば同様に相続しない事になります。
他の人も相続放棄する必要が出てくる
相続放棄をする事で相続人がいなくなると別の順位の人が相続人になります。
今回のケースだとAさんと子供2名とBさんの4人全員が相続放棄をした場合、妻の両親や祖父母が相続人になります。
その方々が他界している又は相続放棄すれば次は妻の兄弟姉妹甥姪が相続人となり、この方々も相続放棄手続きをしなければならない事になります。
このように自分たちが相続放棄をすることで他の親族が相続放棄手続きをする必要がでてしまいます。
そのため親族に負担をかけたくない事を理由に、相続をしたうえで、時効の援用を選択する方もいます。
3か月以内に手続きをする必要がある
時効の期限は自分が相続人である事を知ってから3カ月でこれを超えると相続放棄は出来なくなります。
消滅時効援用のメリット
プラスの財産を相続できる。
相続放棄とは違い特定の借金について時効の援用をするので他の財産の権利には影響がありません。
相続放棄のメリット
自分の把握できていない債務があったとしても全て放棄した事になる。
相続人としての権利を放棄するのであとからどんな借金が出てきても支払う義務はありません。
どちらを使うか選ばなければならない
このようにどちらにも良い所と悪い所がありどちらを使うか選ぶ必要があります。
例えば時効の援用をしてみたところ、時効の完成に必要な期間がまだ経過していないことが分かったという場合は、やっぱり相続放棄を選ぶという事はできません。
消滅時効の援用は、いったん債務が自分のものであることを前提にして行うものであり、相続放棄とは両立しないとして、消滅時効の援用をしたあとに相続放棄はできない」という解釈もありうるので、どちらが自分に適した方法なのかをしっかり考えてから取り掛かる必要があります。
それを判断するため今回ポイントになるのは
・相続したい財産があるのか
・親族の相続放棄手続きの負担
・自分が把握しているもの以外にも、借金がありそうなのか
という部分です。
妻の財産
妻の他の財産についてお伺いすると「プラスの財産はほぼ何もないし、むしろ他の借金が出てくる可能性は高い」との事でしたので相続放棄が適しています。
相続放棄をしなければ後から借金が発覚するたびに対応しなければならず、その中に時効が出来ない債務が含まれていないとも限りません。
しかしAさんには相続放棄をする上で心配事がありました。
Bさんに負担がかかるかもしれない
Aさんと子供二人が相続放棄をすると相続人はBさんだけになります。
Bさんも相続放棄なり消滅時効の援用なりで対応しなければ借金の返済義務が生じてしまいます。
しかしAさんとBさんは面識がなく連絡先も知らないためそのことを伝える術がありません。
Aさんは、このままではBさんが借金を全額相続して返済する事になってしまうのではないか、と考え相続放棄をためらっていました。
しかし、相続放棄の熟慮期間の3ヶ月の起算日は「自分が相続人である事を知った時から」です。
Bさんが、母が他界した事実知るまでは相続放棄の熟慮期間は起算されません。
Bさんは母が亡くなった事は知らないので、もし債権者から督促状が届いたとしても、その時に母が亡くなった事を知り、そこから3カ月間の間に放棄や時効の対応を取る事ができます。
それらの事をAさんにご説明したところAさんは安心したご様子で、それでは相続放棄の手続きをお願いしますと言って頂けまして受任させて頂く事となりました。
解決までの流れ
相続放棄は裁判所に申述する事となります。
相続放棄完了までの流れは以下のようになります。
収集する書類で一番大変なのは戸籍関係ですが今回はAさんがすでに取得していました。
相続放棄申述書をこちらで記入しAさんに署名と捺印をしてもらいました。
2人の子供は未成年ですがAさんが法定代理人として署名もらう事ができます。
無事に書類が集まったので裁判所に書類を提出し、その後しばらくして申述受理通知を受け取る事ができました。
今回は照会書のやり取りがなかったためスムーズに相続放棄をする事ができました。
まとめ
今回は妻のプラスの財産はほぼなかったために相続放棄を選ぶ判断が容易でした。
もし不動産が残っていると借金の額と比べて売却か放棄かの判断する事になります。
もし、その不動産にAさんたちが住んでいる場合、放棄をするにしても不動産の管理義務が残り、最終相続した人か、相続人全員が相続放棄をした場合に選任される相続財産管理人に引き渡すまでは自分の財産と同じだけの注意を払って管理する義務があります。
また、時効の要件が満たしている債権がある場合、時効の援用か放棄か正しく選ぶためには正しく財産調査を行う必要がありますので専門家に相談するのがオススメです。
この記事を担当した専門家
司法書士法人C-first
司法書士
石田 真由
- 保有資格
司法書士
- 専門分野
相続 遺言 生前対策
- 経歴
大学在学中に民法の面白さにはまり司法書士を目指す。司法書士試験合格後は、複数の事務所で司法書士業務全般に携わる。C-firstに入所後は、主に相続や、生前対策分野を担当し、依頼者に貢献できるよう、日々研鑽している。