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失踪宣告を省くことで手続きにかかる期間を大幅に減らした事例

ご利用プラン

相続手続き丸ごとサポート

登場人物

相談者
Aさん

被相続人
Bさん(叔母)

相続人
Cさん(父)

死亡が確認できない相続人
Dさん(Bさんの夫)

相談内容

「遠方に住んでいた叔母(Bさん)が他界した。父(Cさん)が相続人だと思うが軽い認知症で施設に入っている。こうなると手続きが大変だと思うのでお願いしたい。」とAさんが相談にこられました。

お話を伺うとAさんの叔母であるBさんは昔、アメリカに住んでおりアメリカ人のDさんと結ばれ結婚生活を営んでいました。
しかしDさんに先立たれ、日本に帰国して暮らしていました。
それから30年程たった先日お亡くなりになったとの事でした。

Bさん夫妻に子供はいないため相続人はBさんの兄(Cさん)一名で、CさんはAさんの父です。
相続財産には建物が一棟と預貯金が3行あります。

認知症の場合の相続手続き

Aさんの心配の通り認知症であれば相続手続きは非常に煩雑です。
認知症だった場合は成年後見人制度を利用しなければ手続きを進める事ができません。
必要な書類も多く面談も必要になります。
手続きは非常に複雑で早くても2ヶ月、長引いた場合は半年ほどかかる場合もあります。
また専門家が後見人に付く事が多く、その場合は月々の報酬が必要になります。

そういった手続きが必要なのかを確認するために私どもが実際にCさんにお会いする事にしました。

実際にお会いしてみると幸いな事にCさんの症状はそれほどではなく、相続手続きを行うことは十分に可能でしたので今回の案件を受任する事となりました。

解決までの流れ

預貯金の解約と不動産の手続きに必要な書類を集めるためまずは戸籍の収集をします。
Bさんはアメリカ国籍のDさんと結婚しましたが日本国籍のままであったため日本の戸籍を集める事ができました。

ここで今回最大の問題が発覚します。
Bさんの戸籍を確認するとDさんの死亡を確認することが出来ませんでした。
Dさんは日本国籍ではありませんが配偶者としてBさんの戸籍に記載されます。
本来であればBさんの戸籍の配偶者の欄に記載されているDさんが死亡したことが記載されているはずですがそうなっていませんでした。

おそらくDさんがアメリカで亡くなった時に日本の官公庁に届出が出されていなかったのではないかと思われます。

もし死亡している証明が出ないとDさんも相続人の一人として考慮しなければなりません。
Aさんの話ではDさんが死んだ事は間違いなさそうなのでどうしてもDさんが死亡した事の証明書が必要です。

私達はDさんの死亡した証明を入手するため、日本の大使館、現地の領事館、現地の衛生局などありとあらゆるところに問い合わせました。

大使館と領事館

日本国内にあるアメリカ大使館とアメリカ領事館に問い合わせたところ「日本国内で亡くなった方の証明は発行しているがアメリカ国内で亡くなった方の証明は発行していない」との事でした。

衛生局

アメリカには戸籍制度がありませんが、出生、死亡、結婚、離婚に関するそれぞれの証明書を届出した州から発行してもらうことができます。
州によってどこで取得できるのかは変わりますが、Bさん夫妻が住んでいた州であれば衛生局で死亡証明書を取得できます。
衛生局へは全文英語でやり取りをする事になります。
通話よりもメールで連絡するのが費用の面でも良かったので英語の文章を衛生局に送りました。
アメリカの衛生局とは時差の関係で私達と業務時間が重なっているのが一日で2時間しかないため連絡を取りやすい環境とは言い難いです。
そのためか衛生局からの連絡はとても遅く、返事がない事も多かったのです。

証明書が出せない二つの問題

衛生局からの回答は「こちらの州で亡くなった確証がない。そもそも直系血族以外の人には証明書は発行できない」との事でした。

Dさんの情報がはっきりとわからない

死亡証明書を取得するには私たちはDさんの事を知らなさすぎました。
Dさんが亡くなった日、亡くなった場所、どこでどんな仕事をしていた人なのかもわかりません。
おそらく30年前にBさんと暮らしていた場所で亡くなっただろうと考える程度でした。
CさんはBさんとは遠方で暮らしていためDさんの話をする機会は多くなかったそうです。

証明書を取得できるのは血縁のみ

死亡証明書を取得できるのは「本人、配偶者、直系血族(祖父母、父母、子、孫など)」です。
Aさんに事情を説明してDさんの親族で連絡の着く方がいないか聞きましたが心当たりはないとの事でした。

この事から州が発行する死亡証明書を取る事は絶望的でした。

海外専門の戸籍取得業者

海外戸籍の取得を専門にする業者に問い合わせてみたが、「その状況では証明は出せないだろう。『死亡証明書は出せない』という内容の書類なら出せる」との事でした。
しかし死亡証明が出せない旨の書類は相続手続きに使えません。

失踪宣告

死亡届が取れないとなると失踪宣告という手続きが必要になります。
失踪宣告は失踪してから7年の時間が経過している必要がありますが、その期間は満了しています。
今回は遺族年金のような書類があったりとDさんが亡くなっている可能性が高く失踪宣告の手続きは可能です。
とは言え、失踪宣告の手続きは6ヶ月以上の時間が必要である事からできればこの手続きは省きたいと考えていました。

銀行との交渉

どうやってもDさんの死亡証明書が取れない為、銀行各所には事情を全て説明して手続きを進める事ができないか相談することにしました。
銀行は死亡証明書やDさんに子供がいない証明が取れないと手続きは難しい立場にあります。
もし銀行が相続人の確認を怠って払い戻して手続きをしてしまうと、後にDさんが生きている事がわかればDさんにもお金を払い戻す必要があります。
そのため死亡証明書がないまま手続きを進めてしまう事は大きなリスクを伴いますし銀行の信用低下にもつながります。

そうならないために私たちは、上申書を提出する事を提案しました。
上申書には戸籍が取れなかった時などに取れなかった理由、出来る限りの事をしたということ、銀行にはリスクは負わせない約束等を記載して相続人が実印を押すと説明しました。
これにより出来る限り銀行のリスクを軽減する事が出来ます。

どの銀行もその方法で承諾してくれましたが、各銀行で上申書に追記して欲しい文章を提示されたので一行ずつ丁寧に上申書を作成して了解を得る事ができました。

万一Dさんが生きている場合、Dさんに対する支払いの責任はAさんにあるという内容の上申書で、Cさんの実印が必要なのでAさんに全ての事情を説明するとCさんは快諾してくれました。

法定相続情報が利用できない

手続きを進める事が出来るようになりましたがもう一つ大変な事がありました。
それは法定相続情報一覧図が作れないということ。
法定相続情報一覧図は、故人である被相続人と相続人との関係が表になった書類です。

これは戸籍一式の代わりに使う事ができて、必要であれば何枚でも取る事ができます。
戸籍一式を何セットも集める必要がなくなり、何ヶ所にも同時に提出する事ができるのでスムーズに手続きを進める事ができるようになります。
しかし相続関係の中に外国籍の方がいるなど海外の証明書が絡んでくると法定相続情報一覧図は作れません。
そのため一つの銀行に戸籍一式を提出して、返却を待ってまた次の銀行に送るという手順を繰り返す事となりました。

時間はかかったものの全ての銀行の手続きを完了できました。

建物の名義変更

次は建物の所有権です。
今回は法務局に所有権を移転する申請をする必要がありませんでした。
Bさんが日本国内に所有していた不動産は建物のみで底地はBさんの所有ではありませんでした。
さらにその建物は登記していない未登記建物だったため法務局に申請する必要はなく、市町村役場に届出を出します。
その時に必要な書類は市町村によって変わりますが、今回は戸籍が不要だったためスムーズに届出を出すことができました。

これでBさんの相続財産全てをCさんの名義に変えることが出来て今回の相続手続きを完了しました。
Aさんに全てをお伝えしたところ大変感謝して下さり、思い出に残るようなやりがいを実感する案件となりました。

まとめ

海外に在籍していた人は戸籍の手続きを現地の役所と日本の役所の両方に問い合わせて手続きすることをお勧めします。
現地の役所に届け出たら自動で日本に伝わることもありますが、確実ではありません。
自分でどちらの国の役所にも問い合わせて届け出を出すことで今回のような事態を予防することができます。
日本の役所に届けるときは現地の死亡の証明書を見せる事で死亡届を受けてくれます。

この記事を担当した専門家

司法書士法人C-first

司法書士

江邉 慶子

保有資格

司法書士 相続アドバイザー 2級FP技能士 行政書士 宅建士

専門分野

相続 遺言 生前対策 家族信託

経歴

大学卒業後、不動産会社に勤務。自身の祖父の相続経験から「相続争いになる人を減らしたい」という想いがあり司法書士試験にチャレンジし、合格。平成27年7月から「司法書士法人C-first」に入所。入所時から相続を担当し、相談件数400件以上。セミナー講師も務め、生前対策の大切さを伝える。


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