30筆の相続不動産から様々な問題を解消して相続したケース
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相続手続き丸ごとサポート
登場人物
被相続人
Aさんの父
相続人
Aさん
Aさんの弟
Aさんの母
その他
相続物件近くの土地家屋調査士
相談内容
「父が亡くなったので不動産の名義変更をしたい」とAさんが相談に来られました。
相続人はAさん、Aさんの弟、Aさんの母の3人です。
不動産を確認すると遠方に30筆もの土地といくつかの建物があり、これらを全てAさんの名義にしたいとの事でした。
不動産は主に土地で田、畑、山林といった地目の物が殆どでした。
建物もありましたがその中にはすでに取り壊していているにも関わらず、滅失の登記がまだなものや、建物はあっても未登記の家などもありました。
また土地の中には中には曾祖父の名義のままになっている物、昭和4年から抵当権が付いている物などが含まれていました。
これらの不動産をAさんの名義に変更するには以下の手続きをしなければなりません。
滅失登記と表示登記
建物の中には
・すでに取り壊されているが滅失登記をしていないもの
・建物が存在しているが表示登記をしていないもの
などが含まれていました。
滅失登記とは建物が解体等でなくなったことを記録する登記で、行なわなければ相続手続きができないという物ではありませんが、いずれ土地を売るなどで手放す時にはする必要のある登記です。
表示登記とは建物を建てた時に行う登記で、これをきっかけに登記事項証明書(建物の謄本)が作られます。
この建物を相続人の名義にするためには必ずしなければならない登記になります。
相続登記
今回は相続関係が複雑ではない事と相続の内容について意見が一致しているため戸籍謄本と遺産分割協議書などの書類を集めるのはスムーズに行きそうです。
しかし不動産が30件ともなると固定資産評価証明書などの取得には手間がかかりそうです。
休眠担保権の抹消登記
昭和初期から休眠担保権の抹消登記です。
休眠担保権とは、明治から昭和初期に抵当権が設定されて、完済したかも不明で債権者との連絡も取れず、長年放置され続けている担保権のことです。
この担保権は解決しなければ直ちに困った事になるという物ではありませんが、放置しておくと債権者が現れる可能性も全くないわけではありませんし、この土地を売る事や新たな担保にする事も難しくなります。
そのため、出来るだけ早いうちに抹消登記をしておくのが好ましいと言えます。
休眠担保権には4つの解決方法があります。
①完済した書類(領収証など)を使って抹消の申請をする。
②公示催告をして「除権決定があったことを証する情報」を取得して抹消の申請をする
③裁判を起こして審判書を取り抹消する
④債権額、利息、損害金、などを計算してその金額を供託する。
①ができれば一番良いのですが書類がない場合は④の供託するのが現実的です。
供託とは、貸主が返してもらえるはずのお金を供託所にあずける事であとから貸主が現れても供託所でお金を貸してもらえる制度です。
供託をすると供託書が取得でき、それを使って抹消の手続きを行えます。
これで貸主が現れても表れなくても抹消手続きをする事ができますし貸主もお金を返してもらう権利を失わずにすみます。
供託をするには以下三つの条件をクリアすればよいためハードルは高くありません。
1,貸主と連絡が付かない
2,弁済期から20年以上経過している
3,債権額、利息、遅延損害金の合計を供託する
これらは全て満たしています。
3,に関してですが、お金を借りてから何年も利息がついて莫大な金額になっているのではないかと思う方もいらっしゃるかもしれませんがそうでもありません。
借りた元金はなんと玄米で、今ではする人はいませんが昔は玄米をお金の代わりに貸し付けて抵当権を設定する事がありました。
その玄米の時価総額は100円にも満たないのです。
昔は大金だったのかもしれませんが今では大きな金額とは言えません。
この時価総額を債権額として、利息、遅延損害金を計算した結果、供託しなければならない金額はわずか数百円である事がわかりました。
この金額を供託して供託証明書を取得できれば抹消登記の申請をする事ができます。
農地と森林を相続した時の届け出
農地と森林を相続した場合には届出が必要です。
農地を『売買』する場合は農協の『許可』が必要で、その許可を貰うのは非常に困難ですが、相続であれば農地であっても農協の許可は不要です。
しかし、売買か相続に関わらず農地を取得した人は「農業委員会」への『届出』が必要です。
農業委員会とは、農協とは別の組織で大抵は市町村役場に設置されています。
今回のケースですとこの届出は二つの種類を行なう事になります。
・農地法第3条の3の届出
相続等により農地の権利を取得した場合は農業委員会に届出る必要があります。
・森林の土地の所有者届出制度
相続等により森林の土地を新たに取得した方は、面積に関わらず届出をしなければなりません。
この届出自体は難しい物ではないですが必ずしなければなりませんが今回は不動産の数が多いので一苦労しそうです。
また、この手続きは行政書士の業務ですので司法書士の中にはこれが必要な事を知らない方もいます。
シーファースト相続相談窓口では行政書士が在籍しておりますのでワンストップで手続きする事が可能です。
これらの問題に加えて遠方でかつ筆数が多いため手続きが煩雑になる事が予想されます。
この事をAさんにお伝えした所、たくさんの手続きが必要な事に驚かれましたが「この機会に全てをきれいにしてしまいたい。」とおっしゃって下さいましたのでお受けする事となりました。
解決までの流れ
まずは戸籍集めですが相続関係は複雑ではないためスムーズに集め終える事ができました。
財産調査として全ての不動産の登記情報を取得します。
インターネットで取得できるのですが全ての物件を打ち込むのは一苦労ですがそれほど手間はかかりません。
関係する市町村役場に固定資産評価証明書と名寄帳を請求して他にも物件が無いかを確認しました。
滅失登記と表示登記
まずは滅失登記と表示登記から取り掛かりました。
これらの登記は実は司法書士ではなく土地家屋調査士の業務になります。
シーファースト相続相談窓口にも土地家屋調査士は在籍しているのですが今回は現地の土地家屋調査士にお願いする事にしました。
と言うのもこの二つの登記は土地家屋調査士が現地に行って調査をする必要があります。
遠方の土地ですと移動するだけで時間と費用がかかってしまいこれはお客様の負担になってしまいます。
現地の土地家屋調査士にお願いする事で費用も抑えて時間も短縮できます。
そういった理由で現地の近くにある土地家屋調査士に連絡を取り受けて頂ける事務所を探しました。
何件か断られましたが無事に受けてくださる事務所が見つかり、書類のやり取りをして二つの登記を依頼する事ができました。
供託
次に休眠担保権の抹消の準備をしました。
休眠担保権に関する供託の窓口はその不動産を管轄する法務局にある供託所になります。
前述した供託の3つ条件を満たしていますので、供託所に必要書類を提出し供託金を供託する事で供託証明書を取得できました。
相続登記の書類の準備
遺産分割協議書など押印が必要な書類なども全て揃え、相続登記と抹消登記の申請書一式を法務局に提出し、無事に登記を完了する事ができました。
農地と森林を相続した時の届け出
最後は農業委員会に農地と森林の届出を出します。
前述した通り農地法第3条の3の届出と森林の土地の所有者届出制度の届け出が必要です。
どちらの届出書も大抵は市町村のHPからひな形がダウンロードできます。
届出書には所有する人の氏名住所と所有する事になる土地全ての所在、地番、地目、面積などを記載する項目があります。
二種類の届出書を準備して市区町村にある農業委員会の窓口に提出して無事に届出を終えました。
これで全ての問題を解消し、全ての不動産を無事にAさんが相続する事ができたのでした。
今回の事でAさんは「自分たちの代で綺麗にできてよかった。」と満足してくださいました。
まとめ
今回は行なわなくても罰則のない手続きがたくさんありました。
罰則がない手続きは被相続人が生前に自分では気づく事は難しく、自分が亡くなった後で相続人が気づく場合が殆どです。
生前に行う事ができれば簡単な手続きでも死後に相続手続きとして行なうと、書類集めの手間や費用が増えてしまう場合もあります。
なるべく早く今の状態を確認して対策を取る事が重要です。
現状を把握するためには法務局で登記簿を取るなどして調べる事ができますが、専門知識が必要な事も多いため、専門家に相談をするのがオススメです。
この記事を担当した専門家
司法書士法人C-first
司法書士
江邉 慶子
- 保有資格
司法書士 相続アドバイザー 2級FP技能士 行政書士 宅建士
- 専門分野
相続 遺言 生前対策 家族信託
- 経歴
大学卒業後、不動産会社に勤務。自身の祖父の相続経験から「相続争いになる人を減らしたい」という想いがあり司法書士試験にチャレンジし、合格。平成27年7月から「司法書士法人C-first」に入所。入所時から相続を担当し、相談件数400件以上。セミナー講師も務め、生前対策の大切さを伝える。